WORLD Feature Oregon, USA

リソースをシェア、DIYコミュニティの進化形

リソースをシェア、DIYコミュニティの進化形

ポートランドが「DIY(Do It Yourself)」カルチャーの先進地というのは知られたところ。しかし、今回注目したのは単なる“ものづくり”としてのDIYではなく、ポートランドという都市におけるDIYカルチャーとコミュニティの関係、その背景にある市民の暮らしへの価値観と姿勢についてだ。

The Rebuilding Center

The Rebuilding Center

ノース・ポートランド地区に位置し、最近新たなショップのオープンが続くミシシッピ通りにある「Rebuilding Center(リビルディングセンター)」は、DIY好きのポートランダーたちにとって欠かせない場所。風変わりなエントランスを入ると、約4000平米の広大な空間に、数万種類ともいわれる驚くべき量の廃材がパーツごとに並んでいる。

“便器やバスタブ、ドア、窓、木材などの大きな廃材から、照明やタイル、ドアノブまであらゆる建築資材が集められている。

便器やバスタブ、ドア、窓、木材などの大きな廃材から、照明やタイル、ドアノブまであらゆる建築資材が集められている。
便器やバスタブ、ドア、窓、木材などの大きな廃材から、照明やタイル、ドアノブまであらゆる建築資材が集められている。

このセンターは地元のNPOによって運営されている建築資材のリサイクルセンターで、改装や解体で出た不要な廃材が巨大な空間に集められ、パーツごとに整理され、市場価格よりも格安で販売されている。ポートランドのDIY愛好家たちはここに来て、好みのアイテムを見つけていくのだ。

“Community is at the heart of our mission, materials are the means.(コミュニティこそ私たちのミッションの中心、マテリアルはその手段)”

“Community is at the heart of our mission, materials are the means.”

(コミュニティこそ私たちのミッションの中心、マテリアルはその手段)

誕生の背景には、大量に発生する住宅廃材の有効活用と地域コミュニティへの貢献という目的があった。廃材は寄付というかたちで常に受け付けており、解体は大勢のボランティアによって行われるという。自らの手で好きなものを創りたいというDIY精神と、廃材を回収・シェアすることでゴミを減らし、環境や資源を大切にしようとする市民の価値観が融合して生まれたポートランドらしい場所といえよう。

ADX

ADX

ポートランドのDIYシーンで注目を集める場所が、サウスイースト地区にあるADXだ。工場のような空間には様々な素材を加工できる機材や設備、その知識を持つ人材が備わっている。ADXでコミュニケーション&マーケティングディレクターを務めるMatt Preston氏が迎えてくれた。隣りにある巨大な球体は、この場所で利用者が木材を切断、組立、研磨などして創作された象徴的な作品だという。

ADXの外観。ロゴには“Building a Community of Thinkers & Makers(思想家、創造者のためのコミュニティを創ろう)”の文字。
ADXの外観。ロゴには“Building a Community of Thinkers & Makers(思想家、創造者のためのコミュニティを創ろう)”の文字。

ADXがこの地に誕生したのは2011年。リビルディングセンターに代表されるような日曜大工的なDIYカルチャーだけでなく、ポートランドにはウール製品ブランドのペンドルトンやブーツメーカーのダナーなどに代表される、職人的なものづくり文化が根づいていた。しかし、一般市民や何かものづくりで事業を起こしたいと願う人びとが気軽に挑戦できる環境は存在していなかった。

ADXの創業者であるKelley Roy氏はそうした状況から、誰もが気軽に木材や金属の加工に必要な空間・機材にアクセスできるスペースを提供したい、という想いがきっかけでこの場所をオープンさせた。ヒントを得たのは、NYブルックリンにある「3rd Ward」という、市民や子どもたちにハンドクラフトの技術を提供する施設だった。それから物件を見つけ、まずは自己資金で中古の工作機械などをそろえ、開業にこぎつけた。

会員制のメイカースペースとして2011年にスタートしたADXは、すぐに軌道に乗ったわけではないが、徐々に会員数を増やし、2016年2月時点で184人のメンバー会員がいる(利用できる設備・時間によって会費が異なる)。5人の正社員と20人のアルバイトを雇うまでになり、2015年度は初めて黒字となった。

現在、ADXに整備されている環境は、木材加工、金属加工、ソーイング(縫製)、ジュエリーメイキング、レーザーカット、グラフィティ、3Dプリントなど多岐に渡る。世界各地に広がるいわゆる「メイカースペース」はコンピューターや電子工作に特化したものが多いが、ADXでは実際に手作業で加工するクラフト分野が大きな割合を占めていることもポートランドらしい。

木材を加工し組み立てられているボート。
木材を加工し組み立てられているボート。

メンバーはそれぞれの制作場で作業に没頭していた。
メンバーはそれぞれの制作場で作業に没頭していた。

メタル加工を行う男性に声をかけるMatt氏。照明を作っているという。
メタル加工を行う男性に声をかけるMatt氏。照明を作っているという。

取材時にはソーイングのレクチャーが行われていた。
取材時にはソーイングのレクチャーが行われていた。

メンバーが自由に利用できるカフェスペースもある。
メンバーが自由に利用できるカフェスペースもある。

メンバーが制作したレーザーカッティングを嬉しそうに見せてくれた。
メンバーが制作したレーザーカッティングを嬉しそうに見せてくれた。

最新の3Dプリンターなど高価な機器を使えるのも魅力のひとつ。
最新の3Dプリンターなど高価な機器を使えるのも魅力のひとつ。

創業から5年が経ち、このスペースから自らの事業を立ち上げて羽ばたいていった事例は100近くになるという。その後、様々な設備や人材がそろうこの場所に再び戻ってくるメンバーや、教える立場として参加する卒業メンバーもいるようだ。ADXというメイカースペースがコミュニティとして機能しはじめた証拠ではないだろうか。

ADXは次の3年でさらなる発展をめざす。
地域のメイカーのためのコミュニティとしてより安定した基盤を整えると同時に、地元のマテリアルサプライヤーやものづくり企業とのつながりだけでなく、他の都市のメイカースペースとのパートナーシップを広げ、メンバーにより充実したリソースを提供すること。また、このADXで培ったメイカースペースのモデルを、例えばファションやアグリカルチャーなど異なる分野に活用できないかなど、様々な可能性に挑戦していく計画だ。メイカーコミュニティの新たな進化に注目したい。

Independent Publishing Resource Center

Independent Publishing Resource Center

ADXと同じくサウスイースト地区には、もうひとつポートランドらしいDIYコミュニティの拠点が存在する。その名も「IPRC(Independent Publishing Resource Center)」。ポートランドではやくから根づいてきたZINE(ジン)カルチャーを支えるNPO団体の施設だ。

Independent Publishing Resource Center

ZINEとは、個人が好きなテーマで制作・配布する自主制作出版物のことで、日本では同人誌と呼ばれることもある。出版社や流通を介さないため、基本的に明確なルールは存在せず、自由なテーマやスタイルで制作されている。ただ、個人や団体が発行するため部数は小規模なことがほとんどだ。
もともとの発祥は1950~60年代にサンフランシスコのヒッピーカルチャーから生まれたという説もあるが、80~90年代にかけて西海岸のスケーターカルチャーの中心にいた若者たちが、写真やイラスト、詩や情報を入れた小冊子を配布したことでZINEカルチャーが広がったといわれる。

いまではZINEカルチャーのメッカともいわれるポートランドで、IPRCはどのような役割を担っているのか。プログラムディレクターのA.M. O’Malley氏に施設を案内いただきながら話を伺った。

ポートランドでもZINEが作られはじめたのは1990年代。もともとDIYやアートカルチャーが盛んだったこともあり、ZINEは市民の間で広がりつつあった。しかし、当時はZINEを制作したくても知識やノウハウ、設備がなく、市民がはじめるにはハードルが高かったという。
そこで1998年に、創業者であるChloe Eudaly氏とRebecca Gilbert氏が共同でIPRCを創設。当時からZINEを作って情報発信していた2人は、ZINE制作に必要な知識や設備を共有して、誰もがZINE作りをはじめられるようなスペースとしてオープンした。会員制でメンバーを募り、運営はNPO団体として国や行政のアート支援金、メンバーの会費などでまかなわれている。メイカースペースのADXと同様、リソースをシェアし、コミュニティを創出することを目的としている点が驚くほど共通している。

昔ながらの手法で行う活版印刷をレクチャーしてくれた。
昔ながらの手法で行う活版印刷をレクチャーしてくれた。

制作中のスクリーンプリントを用いたアート作品。
制作中のスクリーンプリントを用いたアート作品。

裁断・製本機の使い方を実演を交えて説明。
裁断・製本機の使い方を実演を交えて説明。

これから製本作業に入るという、受刑者の作品をまとめたZINE。
これから製本作業に入るという、受刑者の作品をまとめたZINE。

A.M.氏もお気に入りの、IPRCで作られたアートなZINEたち。
A.M.氏もお気に入りの、IPRCで作られたアートなZINEたち。

IPRCのZINEライブラリーは世界で2番目の所蔵数を誇るという。(トップはフランスにあるとか)
IPRCのZINEライブラリーは世界で2番目の所蔵数を誇るという。(トップはフランスにあるとか)

IPRCには活版印刷やスクリーンプリント、ペインティング、製本機まで、ZINE制作に必要な設備がそろい、特定のテーマの情報誌だけでなく、ビジュアルアートやコミック、詩集やエッセイなど様々なZINEが手作業で制作されている。いまでは会員メンバーが200人、世界中に広がるサポーターは4000人を超えるという驚きの数字。ZINEを通じて一大コミュニティが形成されているのだ。じつはIPRCのメンバー同士で結婚したカップルも生まれ、もちろんインビテーションカードはここで作られたという。

A.M.氏

小さな田舎町で育ったA.M.氏は、幼い頃からパンクミュージックやアートに興味があったが、表現したくてもそれを共有できる人が周りにいなかったという。そこで、自らZINEを作り、同じ興味を持つ人と文通のように送りあって交流を深めたことがZINEの世界に入るきっかけだった。いまではIPRCでZINEコミュニティを支援すると同時に、自ら作品制作も続け、外でクリエイティブ・ライティングも教えている。

A.M.氏から日本のZINEファンへのメッセージ。
「Be willing to experiment and to fail.(なんでも試して、失敗してみて)。ZINEを通じて、日本の人たちともつながりたい。IPRCにも来てほしいし、日本に呼んでくれたら喜んで飛んでいくわ」

紹介してきたこれらポートランドのDIYカルチャーは、いずれもリソースをシェアすることでコミュニティが生まれている好例だ。「欲しいものを自ら創る」だけでなく、いかに共感を生むか、人との関係を育めるか、地域に貢献できるかといったコミュニティ意識が必ず存在する。こうした考え方はポートランドの地域社会の様々なシーンに及ぶ。まさに“創造都市”を形成する人びとのスピリットなのだ。