WORLD Feature Oregon, USA

創造都市とアートコミュニティの親密な関係

Wieden+Kennedy

Wieden+Kennedy

かつて倉庫街だった土地が生まれ変わり、いま最もポートランドで注目を集めるパールディストリクトの一角にあるビル。その扉を開けると、世界中の社員のポートレートと巨大なビーバーのモニュメントが迎える広大な吹き抜けの空間が広がる。

ここは、ポートランドで誕生し、いまや世界8都市に拠点を置くグローバルクリエイティブエージェンシーWieden+Kennedy(ワイデン+ケネディ)の本社ビル。地元のナイキをはじめ、数々の世界企業のクリエイティブを担当し、業界では知らないものはいない存在だが、1982年の創業から一貫して地域コミュニティとの関係を重視してきたことが、彼らのクリエイティビティをトップブランドにまで高めたのかもしれない。

もともとは冷蔵倉庫だったという巨大なビルは、地元の建築家の手によって驚くべき姿に生まれ変わった。単なるオフィスであってはならず、600人の社員が常に創造的に仕事ができるよう、あらゆる部分がデザインされている。

“エージェンシーの心臓”とも呼ばれるビルの中心に位置する吹き抜けのホールエリア。月一回のミーティングやパーティー、ゲストを呼んでのイベントなどが行われる。卓球台が置かれていたり、子どもが遊んでいたりと、社員にとってのリビングルームのような場所でもある。
“エージェンシーの心臓”とも呼ばれるビルの中心に位置する吹き抜けのホールエリア。月一回のミーティングやパーティー、ゲストを呼んでのイベントなどが行われる。卓球台が置かれていたり、子どもが遊んでいたりと、社員にとってのリビングルームのような場所でもある。

バスケットボールのコートでリフレッシュ!
バスケットボールのコートでリフレッシュ!

ビル内にある開放的で洗練されたカフェスペース。
ビル内にある開放的で洗練されたカフェスペース。

至るところに社員や地元アーティストの作品が設置されている。

至るところに社員や地元アーティストの作品が設置されている。

至るところに社員や地元アーティストの作品が設置されている。
至るところに社員や地元アーティストの作品が設置されている。

「Fail Harder(より失敗しよう)」「The Work Comes First(政治やエゴは脇におき、創造しているものを最優先に考えよう)」といった“Wiedenisms(ワイデンイズム)”を表現するインスタレーション。

「Fail Harder(より失敗しよう)」「The Work Comes First(政治やエゴは脇におき、創造しているものを最優先に考えよう)」といった“Wiedenisms(ワイデンイズム)”を表現するインスタレーション。
「Fail Harder(より失敗しよう)」「The Work Comes First(政治やエゴは脇におき、創造しているものを最優先に考えよう)」といった“Wiedenisms(ワイデンイズム)”を表現するインスタレーション。

最上階の6Fには巨大な「巣」?!
最上階の6Fには巨大な「巣」?!

最上階に設置された「Nest area」と呼ばれるミーティングスペース。木の枝を用いた“Stickwork”アーティストのPatrick Dougherty氏に依頼し制作された象徴的な空間だ。
最上階に設置された「Nest area」と呼ばれるミーティングスペース。木の枝を用いた“Stickwork”アーティストのPatrick Dougherty氏に依頼し制作された象徴的な空間だ。

オフィスを案内してくれたPR担当のRebecca氏とReema氏。
オフィスを案内してくれたPR担当のRebecca氏とReema氏。

このような斬新なオフィスをパールディストリクトに構えた背景には何があるのか?

常に新しい発想や創造力が求められるワイデン+ケネディのビジネスにおいて、すでに完成された都市でビジネスマンばかりが行き来するような場所では、ほんとうのクリエイティビティは生まれて来ない。それよりも、アイデアの源は常にストリートやユースカルチャーにあると考え、それらと密接に関わることこそがビジネスにも活きてくる。そうした企業文化から、1988年にそれまでオフィスがあったダウンタウンから、若いアーティストなどが住み始め、変化の最中にあったパールディストリクトに拠点を移した。

ワイデン+ケネディでは、地域のアーティストやアートコミュニティとの関係を現在でも大切にしている。毎月第一木曜日にこの地区一帯で開催される「First Thursday(ファースト・サーズデイ)」とは、地域のアートギャラリーやアーティストたちが一斉に新作を発表するイベントで、企業やレストランなども参加し、街がアートを軸に大きな盛り上がりをみせる。広域から大勢の人が訪れ、ドリンク片手にギャラリーを梯子したり交流を楽しむ。アートカルチャーが根づいてきたパールディストリクトらしいイベントだ。

ワイデン+ケネディでも1階のエントランスに広がるコモンエリアと呼ばれる空間を開放し、地元のアーティストの作品発表、交流の場として提供している。このスペースは定期的に社員とアーティストや市民がつながる場として活用されている。

コモンエリアを活用した地元アーティストの展示の様子。

コモンエリアを活用した地元アーティストの展示の様子。

コモンエリアを活用した地元アーティストの展示の様子。
コモンエリアを活用した地元アーティストの展示の様子。

世界的なクリエイティブカンパニーとなったいまも地域コミュニティと密接な関わりを持ち続けるワイデン+ケネディ。アーティストの育成や支援、時にコラボレーションすることで自ら刺激を受けると同時に、さらに地域のアートカルチャーとの相乗効果を生み出す。そんな親密な関係がここにはある。

市民とアートの距離が近いまち

PNCA(Pacific Northwest College of Art)

ポートランド市民とアートの親密な関係に触れられたのが、滞在中に開催されていたアートカレッジでのイベントの一時だった。

パールディストリクトにあるPNCA(Pacific Northwest College of Art)は、ポートランドを代表するアートカレッジ。歴史ある旧連邦移民局の建物を校舎として活用し、多くの若い才能を育んでいる。その空間で開催されていたのが、地元アーティストの作品展示会とオークションだった。
フィンガーフードやワインを片手に、展示された作品を見て回ったり、会話を楽しむ人びと。関係者だけでなく、市民やアーティスト本人が入り混じって交流を深めていた。ファースト・サーズデイと同様に、こうしたイベントが定期的に開かれているという。アーティストにとっては作品発表の場、そして収入を得る重要な場になるだけでなく、市民との直接的な交流の場にもなる。

PNCAが入居する荘厳な歴史的建築。まるでミュージアムのようだ。
PNCAが入居する荘厳な歴史的建築。まるでミュージアムのようだ。

会場入り口ではワインが振る舞われ、パーティーのような華やかな雰囲気。
会場入り口ではワインが振る舞われ、パーティーのような華やかな雰囲気。

来場者たちは真剣に、時に笑い合いながら作品を吟味したり交流を楽しむ。

来場者たちは真剣に、時に笑い合いながら作品を吟味したり交流を楽しむ。
来場者たちは真剣に、時に笑い合いながら作品を吟味したり交流を楽しむ。

ポートランド市民は世界的に有名なアーティストの作品よりも、地元アーティストの作品を好んで購入するという。もちろん彼らを応援したいという気持ちもあるのだろうが、それよりも、アートコンシャスな市民のお眼鏡にかなう作品が次々と生まれてくる土壌ができているのではないか、そう感じた。

いつの時代も社会を映し出し、社会に反発し、新しい何かを創出してきたアート。ポートランドには、アートカルチャーを育む自由で柔軟なコミュニティが息づいている。その土壌が、この都市の創造性をいっそう高めているのかもしれない。