WORLD Feature Oregon, USA
PORTLAND

Chapter 2. A Place where the Community is born
PORTLAND

コミュニティの生まれるところ

ポートランドという都市の独自性を、都市開発の歴史とインタビューから紐解いた特集第一号「City of Human First Development(ヒューマンファースト・デベロップメント)」に続き、第二回では「A Place where the Community is born(コミュニティの生まれるところ)」と題して、“創造都市”と称され、多くの人びとを惹きつけてやまない現在のポートランドの魅力に迫る。

取材して見えてきたのは、この都市に暮らす人たちが、地域を愛し、誇りを持ち、自身の生活を自らで高めていること。新しさや便利さ、物質的な豊かさを追い求めるのではなく、なにが自分たちの暮らしにとって大切なのかを考え、自由な発想で創造・実践している。このDIY精神とクリエイティビティこそが、外からポートランドを見る人たちにとって、とびきり新鮮に映るのかもしれない。
ポートランドにおけるDIYカルチャーとはものづくりにとどまるものではなく、同様にクリエイティビティといっても、いわゆるグラフィックや製品、空間デザインの話に限らない。求めるライフスタイルを自ら形づくっていく創造的な姿勢やアイデア、それを実現する人と土壌がこの地には存在する。

不思議とそれらのスタイルは、個人にとどまらず、企業や行政にまで共通認識され、自然発生的に多様な「コミュニティ」を生み出している。もちろん第一回で触れたような、この都市に移り住んできた人びとの気質や都市政策がベースに存在するうえで、市民の暮らしの中心にある創造的なコミュニティが、相乗効果のようにポートランドという都市の魅力を高めているのだ。

今号では、特徴的な場所、アート、DIY、食文化という切り口で、いまのポートランドを象徴するような「コミュニティの生まれるところ」を巡り、そこにあるスタイルやアイデア、人の想いから都市の魅力に迫った。

Chapter 2. A Place where the Community is born

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オーセンティックな社交場

Ace Hotel Portland

Ace Hotel Portland

いまやポートランドのアイコン的存在となったエースホテル。パールディストリクトにもほど近いダウンタウン・ウエストエンド地区に佇むこのホテルには、ポートランドを象徴するようなエッセンスが凝縮されている。

1999年にシアトルで誕生したエースホテルは、それまでの「快適」「豪華」「プライベートな空間」を提供するだけの滞在拠点としてのホテルの定義を覆し、世界のホテル業界に新風を吹き込んだ。いまではNY、LA、ロンドンなど各地に進出し、いずれもその地の人びとに受け入れられ、成功を収めている。

エースホテルの明確なコンセプトは「地域コミュニティのハブ」となること。人やモノなど、地域のリソースが交わり、循環し、新しい何かが生まれる場所だ。そのため、各地のエースホテルの形態やデザインはひとつとして同じものはない。また、ただ洗練されていてカッコいい、ラグジュアリーなデザイナーズホテル、ブティックホテルなどとも一線を画すものだ。

2007年、エースホテルがシアトルの次の開店先として選んだ土地がポートランドだった。第一号で特集したように、はやくから“地産地消”、“ローカルファースト”、そして暮らしに求める本質的な価値が市民の間に浸透していたこの地域との相性は疑うまでもない。

エースホテル・ポートランドは、もともとこの地にあった築90年の古いホテルを改装してオープンした。立地も、変革が進むダウンタウン・パールディストリクトエリアの中心。瞬く間に、ポートランドの人びとにとって象徴的な場所となった。
古い建物の良さを残しつつ、現代の人びとに求められるモダンさを取り入れるべく、緻密に計算して手が加えられた。重要なポイントは、ローカルのリソースを最大限に活用し、驚くべきセンスでアップデートされていること。建築資材だけでなく、客室のプロダクト、内装デザインなど、至るところに地元のエッセンスが取り入れられている。

ローカルのリソースを大切に、一部屋ごとに異なる独創的なデザイン。ベッドリネンはポートランドで創業し世界的に知られるペンドルトン社製のものを採用。
ローカルのリソースを大切に、一部屋ごとに異なる独創的なデザイン。ベッドリネンはポートランドで創業し世界的に知られるペンドルトン社製のものを採用。

客室や館内のペインティング、オブジェ、プロダクト等には地元のアーティストが数多く参加している。ホテルがアーティストの作品発表の場、アートと外の人が出会う場にもなっているのだ。
客室や館内のペインティング、オブジェ、プロダクト等には地元のアーティストが数多く参加している。ホテルがアーティストの作品発表の場、アートと外の人が出会う場にもなっているのだ。
客室写真引用・参照:Ace Hotel Portland

そして、「地域コミュニティのハブ」をめざすホテルの姿勢が最も象徴的に表れているのが、多くのメディアでも紹介される1階のロビーラウンジだ。本特集のメインビジュアルにも使用したこの光景は、まさに地域の“社交場”。それも、限られた宿泊客が着飾って集まる場所ではなく、宿泊客も地元の人も、老若男女が気軽に立ち寄って休憩したり交流を育む、とびきりオーセンティックで親しみやすい空間なのだ。

夜のロビーの様子。寛ぐ若者やフォトブースを楽しむ観光客でにぎわっていた。
夜のロビーの様子。寛ぐ若者やフォトブースを楽しむ観光客でにぎわっていた。

このロビーラウンジの両隣には、日本でも知られるサードウェーブコーヒーの先駆けとなったポートランド発のコーヒー事業者「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」と、地元産の食材と豊富な酒類をそろえて旅行者だけでなく市民にも愛されるレストラン&バー「クライド・コモン」が入居。スタンプタウンのコーヒーを片手に新聞を眺めたり、PC作業をする市民が集まる朝のお馴染みの光景や、宿泊客や市民が入り混じってにぎわう夜の様子からも、いかにこのホテルが地域コミュニティに開かれた社交場となっているかがわかるだろう。

ロビーと通じているスタンプタウン・コーヒー・ロースターズ。
ロビーと通じているスタンプタウン・コーヒー・ロースターズ。

クライド・コモンは平日の夜にも関わらず大勢の客でにぎわう。
クライド・コモンは平日の夜にも関わらず大勢の客でにぎわう。

エースホテルでは隣に「The Cleaners」というイベントスペースも運営。この日は地元の若者たちが集い、マリオカートの大会で盛り上がっていた。決して気取らず、地域にオープンで、遊び心も忘れない。

The Cleaners

常に地域コミュニティのハブとなり、社交場であること。訪れる人びとにとって、この都市の心地よい空気感を滞在しながら感じられる、じつにポートランドらしい場所。それがエースホテルの在り方だ。