WORLD Feature Oregon, USA

都市と公共交通・自転車カルチャーの蜜月

 都市と公共交通・自転車カルチャーの蜜月

早くから脱モータリゼーションの気運が高まったポートランドでは、中心市街地はクルマなしでも移動しやすいように様々な公共交通機関・サービスが整えられている。

都市圏の公共交通運営会社TriMetが運営するダウンタウンと近郊をつなぐ路面電車MAXライトレールはポートランド市民の足として親しまれており、この都市を象徴する光景だろう。5つのラインがあり、空港にも乗り入れているため旅行者にも便利だ。また中心部のみを回るストリートカーという環状線もある。TriMetはバスも運営しており、路面電車がカバーしていないエリアに行くことができ、これらの公共交通サービスは同じチケットで利用できることも非常に便利だ。環境にやさしいだけでなく、暮らしやすさがしっかり考慮されている。

 街中にあるMAXのステーションでチケットも購入できる
街中にあるMAXのステーションでチケットも購入できる

 公共交通サービスは自転車を乗せることができ、乗客にはサイクリストも多く見られる
公共交通サービスは自転車を乗せることができ、乗客にはサイクリストも多く見られる

そして、ポートランドといえば、自転車の先進都市だ。
「全米で最も自転車移動がしやすい都市」にも選ばれるほど、自転車文化が浸透している。それは単純に道路の自転車専用レーンやレンタサイクル、駐車場の整備といったインフラの部分だけではなく、ポートランダ―たちは自分の自転車をパートナーのように愛し、日々の足として利用している人が多い。街中にはいくつものデザイン性の高い自転車ショップが存在し、カスタマイズできる店も多い。ホテルや店に自転車を持ち込めたり、自転車を修理してもらう間にビールを楽しめる店が大人気になるなど、この都市と自転車の親密な関係が感じられるだろう。市街地をコースにした自転車レースなど、定期的に様々な自転車関連イベントも開催されている。脱モータリゼーションがもたらしたカルチャーでもあり、人びとにとってのエンタテインメントでもあるのだ。

 ハイセンスなバイクショップとして人気のWest End Bikes
ハイセンスなバイクショップとして人気のWest End Bikes

 街中の至るところに設置された駐輪場
街中の至るところに設置された駐輪場

 2015年に完成したウィラメット川に架かる新しい橋Tilikum Crossingは、自転車、徒歩、公共バス専用の橋として利用されている
2015年に完成したウィラメット川に架かる新しい橋Tilikum Crossingは、自転車、徒歩、公共バス専用の橋として利用されている

 自転車の街らしいパブリックアートが立つ
自転車の街らしいパブリックアートが立つ

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新旧混在が醸し出す都市の粋(センス)

 新旧混在が醸し出す都市の粋(センス)

歴史や伝統文化を大切にしてきたといわれる日本でも、築100年を超える建物は古都と呼ばれるような都市にしか多くは残されていない。また、そうした都市であっても、伝統的建造物群保存地区のように特定の区画にまとめて保護されていることが多いのではないだろうか。それ以外の都市部ではどんどん再開発が進み、似たようなオフィスビルや商業施設、高層マンションが林立する風景に様変わりしてしまった。

ポートランドの特徴は、歴史を感じさせる古い建物と近未来的な新しい建物が都市の中に混在していることだ。築100年を超える建物も街中に普通に混在している。環境への意識だけでなく、単純に新しきを良しとせず、価値あるものを良しとしてきたポートランダ―たちのセンス、そしてニューヨークなどの東の大都市に比べて約200年遅れて都市の歴史が始まっていることで、逆に歴史あるものを大切に残そうという価値観が根付いているという。スクラップ&ビルドではなく、古いものに手を加えて生まれ変わらせるという考え方だ。

 オールドタウンにある古い建物をリノベーションしたThe Society Hotel
歴史ある建物群の中に新しいビルも混在するオールドタウンの街並み

 街の象徴的な書店パウエルズブックスでは、書籍も新刊や古書が混在して並んでいる
街の象徴的な書店パウエルズブックスでは、書籍も新刊や古書が混在して並んでいる

また、ポートランド中心部で新たに建物を建てる場合には、世界で採用されているグリーンビルディングの評価基準LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)認証のゴールドレベル以上でなければ建てることができないと条例で定められており、新しい建築物はすべて環境への配慮やエネルギー効率などの厳しい基準をクリアしている。

 パールディストリクトに建つLEED認証プラチナ(最高基準)を受けた高級コンドミニアム「The 937」
パールディストリクトに建つLEED認証プラチナ(最高基準)を受けた高級コンドミニアム「The 937」

こうした新旧の建物、価値観が混在することによって醸し出されるポートランドらしい都市のセンスが、じつに粋に感じられる。

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職住遊ミクストユースが生むコンパクトシティ/ウォーカブルシティ

 職住遊ミクストユーズが生むコンパクトシティ/ウォーカブルシティ

早くから都市成長境界線の導入とともに、ポートランドの中心市街地で進められてきたのが「コンパクトシティ」構想だ。都市部に市民の生活の場、仕事の場、娯楽の場を集中させ、公共交通の整備や公共事業を集結させることで、クルマに乗らなくても歩き回れるコンパクトなまちが実現し、若者から子育て世代、高齢者まですべての人びとが暮らしやすいヒューマンフレンドリーな都市が形成されるという考え方だ。日本や世界の都市でも導入が進められている概念だが、ポートランドには各地の都市計画担当者がひっきりなしに視察に訪れる。成功モデルといわれる背景には、世界でも類を見ない独自の都市開発コンセプトが隠れているからだ。

特にそのコンセプトが反映されているのは、市の中心部であるダウンタウンと、東西に走るウエストバーンサイド通りを挟んで北側に位置する、近年最も劇的な変化を遂げた「パールディストリクト(Pearl District)」だろう。もともと荒廃した倉庫街だったのが、90年代後半から市と地元ディベロッパーが明確な都市計画のもと開発を進め、いまではポートランドを象徴するエリアに生まれ変わっている。

アメリカでは通常、都市の一般的な区画(ブロック)の長さが400フィート(約120m)であるのに対し、ポートランド都市部ではその半分の200フィート(約60m)に設定されている。そのためすこし歩くと路地が出現し、様々な建物が混在しているため、常に歩行者は新しい風景に出会うことができる。これがポートランドが「コンパクトシティ」であり、「ウォーカブルシティ(歩きやすい都市)」といわれる所以だ。

 中心部であるダウンタウン、パールディストリクトエリアを空から見ると、新旧様々な建物が細かな区画で分けられているのがわかる
中心部であるダウンタウン、パールディストリクトエリアを空から見ると、新旧様々な建物が細かな区画で分けられているのがわかる

また、エリアとしてオフィス街や住宅街をあえて区分せずに、市民の暮らしに必要な「職(仕事)・住(住居)・遊(娯楽)」のすべての機能を混在させることで、あらゆる層の人びとが暮らし、日常的に様々な交流が生まれるように考えられている。建物については1階部分をショーウィンドウにしてどんな店か歩行者に見えるようになっており、2階以上がオフィスや住居物件になっていることが多い。こうした都市開発コンセプトは「ミクストユース」と呼ばれ、コンパクトな都市の中で暮らしやすさと多様性を重視したものなのだ。

 夜になると個性豊かな店の明かりが灯り、歩くのが楽しくなる
夜になると個性豊かな店の明かりが灯り、歩くのが楽しくなる

 人気のレストランも中が見えるオープンなつくりで歩行者を惹きつける
人気のレストランも中が見えるオープンなつくりで歩行者を惹きつける

ご紹介してきたようにポートランドでは、都市成長境界線や公共交通の整備、環境への取り組みなどと同時に、ほんとうに人が暮らしやすいまち、暮らしたくなるまちとはどのようなものか、という多角的な視点で、行政と民間、市民が協力しながら様々な取り組みが並行して進められている。

こうしたポートランドの「ヒューマンファースト・デベロップメント」の歴史は、じつは行政と民間・市民の間に立ち、重要な役割を果たしてきたポートランド市開発局(PDC)という組織の影響が大きい。そのストーリーを聞くため、このPDCで唯一の日本人であり都市開発部に所属する山崎満広さんを訪ねた。