WORLD Feature Oregon, USA
PORTLAND

chapter1.City of Human First Development
PORTLAND

アメリカのノースウエスト、オレゴン州にある人口約60万人の中規模都市ポートランド。「全米で最も住みたい都市」「全米で最も環境に優しい都市」「全米で最もグルメな都市」など、近年様々な角度からアメリカ国内だけでなく世界の注目を集め、毎週平均300人といわれるほど移住者も大きく増加。日本の各種メディアにも「話題のポートランド発!○○」「ポートランドに学ぶ△△」といったワードが踊り、視察に訪れる人も多い。

いま、なぜこの都市はこれほどまでに人を惹きつけているのか?

クラフトビールやコーヒーカルチャー、オーガニックプロダクト、農業、DIY、エコロジー、自転車、アウトドアスポーツなど、ポートランドにまつわる多くのキーワードはすでに知られたところだが、それらの独自のカルチャーやライフスタイルが生まれることになった背景には、この都市が歩んだ歴史と人びとの挑戦、そして暮らしに対する共通の価値観があった。

遡ること、いまから150年以上前の19世紀半ば。

アメリカ各地で高まったイギリスの植民地支配からの脱却を求める気運と、階級社会や人口過密に苦しむ東部から自由と土地を求めて大勢の人びとが大移動をはじめた西部開拓の波、そして1848年にカリフォルニアで突如として起こったゴールドラッシュ。アメリカ史に刻まれる激動の時代の真っ只中、1851年にポートランドは市として歩み出した。 オレゴン・トレイル(オレゴン街道)と呼ばれる、2000マイルにも及ぶ遥かな道のりを大移動してきた東部からの移民のうち、ゴールドラッシュに一攫千金の夢と成功を求めた人びとは南に方向を変え、そして、長期的なビジョンで自由と自立した暮らしを望んだ人びとは、広大な土地と大自然に恵まれた「約束の地」オレゴンを目指したという。そうした人びとの暮らしの根底にある精神は、現在もポートランド市民に脈々と受け継がれている。

世界都市がひた走ってきた資本主義経済の道と一線を画し、何が自分たちの暮らしにとって重要な価値なのか、時代時代で市民自身が考え、環境を、暮らしを守ってきたそのアイデンティティが、いま都市の引力となって強烈に人びとを惹きつけている。

街を歩き回り、ポートランダーたちの声を聞くことで見えてきた、都市の姿、暮らしの姿。個性豊かな人びとがそれぞれのライフスタイルを確立しているようでいて、都市全体がまるで巨大な“ご近所付き合い(neighborhood)”のような親しみやすさ。「コミュニティ」という言葉の本質が息づく土地。

いま世界から注目を浴びるポートランドスタイルは、じつはずっと前から変わらずにこの地で受け継がれてきたものなのかもしれない。現地でそれを体感したとき、この都市のほんとうの魅力に触れられた気がした。

Edeaでは2号にわたってポートランドのいまを特集する。

トレンドやスポットというよりは、この都市の肖像とそこにある空間やサービス、人びとの考え方から、暮らしのアイデアを探りたい。

ライフ・イズ・エンタテインメント

Chapter1. Human First Development

取材:2016年2月
協力:ポートランド市開発局(PDC)
参考文献:吹田良平『グリーンネイバーフッド』繊研新聞社

space

space

space

ヒューマンファースト・デベロップメント

ポートランドは、ひと言でいうと、心地よいまちだ。

もともと様々な移民とともに歩んできた都市だからこそ、多様性を受け入れる土壌と自由な感性が備わっているため、どこに行っても堅苦しくなく親近感のある対応に出会える。

街中に立ち並ぶ様々な国のフードカートからも多様性を感じられる
街中に立ち並ぶ様々な国のフードカートからも多様性を感じられる

陽気に声をかけてくるブリュワリースタッフ
陽気に声をかけてくるブリュワリースタッフ

中心部の街並みは高層ビルが建ち並ぶ大都市特有の冷たさはなく、近代的な建築と歴史を感じさせる建物がバランスよく混在し、個性豊かなお店がそこかしこに現れるため、歩くことに喜びを感じられる。

新旧入り混じった建物に囲まれる市民の憩いの場パイオニア・コートハウス・スクエア
新旧入り混じった建物に囲まれる市民の憩いの場パイオニア・コートハウス・スクエア

オールドタウンにある個性的なメニューで大人気のVoodoo Doughnut
オールドタウンにある個性的なメニューで大人気のVoodoo Doughnut

ダウンタウン・ウエストエンド地区にあるユニオンウェイアーケードにはハイセンスなショップが連なる
ダウンタウン・ウエストエンド地区にあるユニオンウェイアーケードにはハイセンスなショップが連なる

そして、市の中心を流れるウィラメット川や、市街地からクルマで数十分行けばオレゴンならではの手つかずの大自然にアクセスできる豊かな環境が、ポートランドという都市の大きな魅力だろう。ナイキやコロンビア、ダナーといった世界有数のスポーツ・アウトドアメーカー誕生の地というのも頷ける。

ポートランドの隣町ビーバートンの自然豊かな場所にあるナイキ本社
ポートランドの隣町ビーバートンの自然豊かな場所にあるナイキ本社

ダナーのショップは緑と木を感じさせる内装がクール
ダナーのショップは緑と木を感じさせる内装がクール

また、こうした環境の豊かさと自由な気風は、アーティストやデザイナー、クリエイターのようなクリエイティブ人材を惹きつけるだけでなく、近年はIT関連企業が開発拠点を設ける動きも活発化し、グーグルやマイクロソフト、インテルなども支社を構えるようになっている。

 ポートランダ―に親しまれている合言葉“KEEP PORTLAND WEIRD(ポートランドは風変わりであり続けよう)”
ポートランダ―に親しまれている合言葉“KEEP PORTLAND WEIRD(ポートランドは風変わりであり続けよう)”

いまや世界から注目を集めるポートランドだが、このような都市が形成された背景には、地理的な恩恵や人びとの精神だけでなく、独自の都市開発の歴史、市民参加型のまちづくりの取り組みがある。それらはすべて行政と市民が密接に連携し、いわば“ヒューマンファーストな(人の生活の質を第一に考えた)”都市開発を実現させてきたからこそなのだ。

第一回では「ヒューマンファースト・デベロップメント」と題して、都市開発における主要な歴史を振り返りつつ、現在の都市の特徴やキーパーソンへのインタビューを通して、ポートランドの魅力に迫りたい。