WORLD Feature NewYork, Paris, Berlin
都市とマガジン ~ Essence of the World ~

都市とマガジン ~ Essence of the World ~

世界の都市の街角や書店、ショップなどで、ふと手にしたマガジンに惹き込まれた経験はないだろうか。独自のコンセプトと編集スタイル、ビジュアルや質感、その都市のカルチャーや匂いが染み込んだような異国のマガジンとの出逢い。たとえ言語が読めなくても大切にとっておきたくなる。日本に暮らす私たちがまだ知らないそんなマガジンは、きっと世界各地に存在し、時代の空気感にあわせて、誰かの手によっていまも丁寧につむがれている。
それらは、あらゆるもののデジタル化が進み、紙メディアの危機が叫ばれて久しい昨今のメディアを取り巻く状況にあって、異彩を放つ。どれだけ多くの人に伝えられるかを気にするのではなく、自分たちは誰に、何を伝えたいのか。確固たるコンセプトで時間をかけてつくられるマガジンは、情報媒体というよりは作品に近い。だからこそ、デジタルではなく手触りのある紙にこだわるのかもしれない。置かれる場所、配布のかたちへのこだわり。創りたい人の手で創られ、自然と共感が集まって特別なメディアになる。
今号の特集は「都市とマガジン」。
多様なカルチャーが混在する世界都市、ニューヨーク・パリ・ベルリンから、とっておきのエッセンスをお届けする。
ライフ・イズ・エンタテインメント

取材:2015年8月
協力: DRIFT (NY)La Terrasse (Paris)streem (Berlin)

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DRIFT from New York

コーヒーカルチャーを通して都市をドリフトする

DRIFT

2015年1月、ニューヨークでひっそりと産声をあげたマガジン「DRIFT(ドリフト)」。ひっそり、というにはわけがある。発刊した当時から広告や宣伝などは行ったことがない。「それでもコーヒー専門店やコーヒー通コミュニティから口コミで広まるのは早かったね」と編集長のアダム・ゴールドバーグ氏は語る。初版のニューヨークを特集した2,000部は9週間で完売。2冊目の東京特集については3倍以上に増刷したにも関わらず、約4週間でソールドアウト。3冊目はさらに15,000部にまで増刷予定というから、その人気ぶりが伺える。この密かな、知る人ぞ知るともいえるDRIFTは、コーヒーカルチャーを通して都市の姿を描き出すニューヨーク発のマガジンだ。

多様なコーヒー文化が息づくニューヨーク
多様なコーヒー文化が息づくニューヨーク

DRIFTは年2回の発行で、世界各地の都市のコーヒーカルチャーを特集していく。といっても、コーヒーそのものについてより深く理解するためのマガジンではない。ゴールドバーグ氏によると、どちらかといえば旅行マガジンかな、という。コンセプトは「Explore cities through the lens of Coffee(コーヒーというレンズを通して都市を発見しよう)」だ。「この冊子のシンプルで美しい写真の数々や、コーヒーと人にまつわる小説のようなストーリーを読んでいると、まさに一杯のコーヒーのためにその地を旅してみたくなりますね」、そんな感想を伝えると、ゴールドバーグ氏は素直にうれしそうな表情をみせた。そして、コーヒーを通してその土地を知る、という自らの経験を話してくれた。

“以前、コペンハーゲンのB&B(ベッドと朝食のみを提供する宿)に泊まった時、ラッキーなことにその宿の下に、それはそれは美味いコーヒー屋があった。僕は旅行中はまず、朝起きたらどこのコーヒーを飲みに行こうかと考えるほどだから、滞在した2週間、毎日その店に通った。すると、馴染みになったオーナーからその街の他のお勧めのコーヒー店を教えてもらい、コーヒー店を巡り歩きながら、その地の文化や情報をいろいろ知ることができたんだ”

DRIFTのコンセプトは、まさにそうした実体験から生まれた。
ゴールドバーグ氏がDRIFTのアイディアを思いついたのは2013年。自身とダニエラ・べラスコ氏(ゴールドバーグ氏のガールフレンドで、マガジンのクリエイティブディレクター)の二人のコーヒー好きが高じて、爆発的な成長をみせるコーヒーの世界を紹介できる何かをしたい、と考えるようになった。また二人は、コーヒーは旅先の文化を知るのによいきっかけになる、ということも感じていた。2014年、ゴールドバーグ氏の妹であり、有名グルメ雑誌ボナペティートのアソシエイトエディターであるエリッサもエクゼクティブエディターとして加わり、2015年、ついにDRIFTが創刊となった。

本物の感触にこだわる

ページをめくると、途端にその世界に惹き込まれる。香りが漂ってくるようなビジュアル、何気ないニューヨークの日常を切り取った美しい風景、そして人のストーリー。

ページをめくると、途端にその世界に惹き込まれる。香りが漂ってくるようなビジュアル、何気ないニューヨークの日常を切り取った美しい風景、そして人のストーリー。読者はその名の通りドリフトする(漂流する)ように、コーヒーを通して都市を漂う感覚を味わう。クリエイティブディレクターのダニエラ・バラスコ氏は、あくまでイメージに焦点を当て、シンプリシティをモットーにした。まるで一冊の写真集のように繊細ながら、全144ページのずっしりとした存在感を創り上げた。印刷の紙の質やインク、印刷方法にもとことんこだわったというゴールドバーグ氏。表紙は白黒ではなく、実際は白とグレーとシルバーの3色を使用しているんだ、と愛でる。同氏は以前、グーグルでエンジニアとして勤めていたという異色の経歴の持ち主。それもあってか、時にデジタルとの接続を絶ちたくなるという。「本物の感触を感じることは心地いいんだ」、だからこそ同氏は、コストは高くても質の高い印刷を選択した。
まるで現地に暮らす人間が書いたようなストーリーやインタビュー記事は、コーヒーカルチャーを通してその都市を体感してほしいというゴールドバーグ氏の素直な感覚でつむがれている。「誰の息がかかった記事なのかと考えながら読むのでは、気持ちよく読めないと思うから」という想いもあり、今のところ広告は一切入れていない。

ニューヨーク、東京、違いを味わう

創刊号は氏の出身地、ニューヨークが舞台。コーヒーのサードカルチャーといえば西海岸が発祥だが、ニューヨークはコーヒー文化の多様性においては特にユニークだという。現在マンハッタンにある100軒以上のスペシャルティコーヒーの店ばかりが流行っているのかと思えば、ニューヨーカーは同じようにダンキンドーナツやマンハッタンの街角に点在するコーヒーのストリートカート(屋台)も平気で利用する。ブルックリンには個性的な店が集まっているかと思えば、ブロンクスではイタリアンスタイルのコーヒーも人気だ。こうした多様なコーヒーカルチャーが混在しているのがニューヨークの特徴であり、人びとを惹きつける魅力なのだ。

第2号の特集に選んだ都市は、東京。元々フードブログ(alifewortheating.com)を執筆しているゴールドバーグ氏は、食の取材などを含めて15回ほど来日している。そして、来るたびに増えるスペシャルティコーヒーショップと、昔から存在する喫茶店がひとつの都市に共存している姿に興味を持った。

VOLUME 2: TOKYO
VOLUME 2: TOKYO

VOLUME 2: TOKYO

“ニューヨークでは、多数あるスペシャルティコーヒーショップもメニューはどこも似たり寄ったりだけど、東京は様々な種類のコーヒーショップの競争が激しく、その分メニューも店ごとに違うし、いろんなストーリーがあっておもしろいんだ”
東京特集では、サラリーマンと缶コーヒーのカルチャーについても独自の視点で切り取った。日本人にとっても、新しい風景が見えてくる。

インタビューがひと通り済んだところで、ゴールドバーグ氏はまた今日の午後プエルトリコに発つといった。バケ―ションかと訊くと、仕事で、と答える。取材前に氏はつい3~4日ほど前に海外から帰国したばかりと言っていた。「旅が好きだから、仕事がまったく苦にならないんだ」と笑う。

期待のドリフト第3号はハバナを特集する。12月1日に発刊を予定。また氏は新しい食の雑誌「Ambrosia」を10月に創刊するという。コーヒーと食を通して都市をみつめ、氏もまたドリフトするように、世界に活躍の場を広げていくのだろう。

DRIFT編集長のゴールドバーグ氏
DRIFT編集長のゴールドバーグ氏