奥にある暮らし ~発見・継承 2016奥四万十博~ 高知県・奥四万十

【集落の未来】農村交流施設 森の巣箱

日本一しあわせな集落の夢を見る

日本一しあわせな集落の夢を見る

奥四万十地域5市町のひとつ、津野町の貝ノ川床鍋(とこなべ)地区は、36世帯83人が暮らす深い山間の集落です。その中心に佇む昔ながらの古びた木造校舎。昭和27年に建てられたこの旧床鍋小学校の校舎は、村の高齢化とともに児童が減少し、昭和59年にその役目を終えました。

この廃校舎の止まっていた時が動き出したのは平成12年。歯止めのきかない少子高齢化によって集落機能の維持が困難になり、床鍋集落が消滅の危機に直面していた頃でした。「床鍋をなんとかせないかん!」そうして立ち上がった住民たちは、この廃校舎を舞台に、集落再生の大きな夢を描きました。
平成15年の春、廃校舎は農村交流施設「森の巣箱」として生まれ変わります。それから13年の月日が流れ、この場所は地域住民にとってかけがえのない場所となりました。そして、遠い夢だと思われていた集落の未来が、いま少しずつ輪郭を帯びてきています。

取材に訪れた私たちを歓迎してくれたのは、森の巣箱運営委員会の代表を務める大﨑登さん。この施設の誕生から現在までのストーリー、これからの床鍋集落がめざす姿についてお話を伺いました。

主役は住民、未来への挑戦のはじまり

大﨑さん

「この旧床鍋小学校は私の母校です。もうだいぶ昔の話になりますが(笑)この地域はかつて林業で栄え、最盛期は集落内に100名余りの児童生徒がいました。廃校になったのは昭和59年。林業の衰退と少子高齢化の進行、そこからは朽ち果てていく校舎を見ているしかありませんでした。
この床鍋地区は津野町にありながらも山に囲まれているため、つい10年程前までは役場のある町の中心部に行くためには隣接する須崎市を迂回し、車で40分もかかっていたんです。まさに“陸の孤島”でした。行政サービスも届きづらく、集落は危機的な状況に直面していたのです」

森の巣箱で代表を務める大﨑さん 森の巣箱で代表を務める大﨑さん

「変化が訪れたのは平成7~8年頃。自分たちの集落をなんとかせないかん!と、私を含む地域の有志15名による床鍋地区開発検討会を発足しました。まずは自分たちで何ができるのか、みんなで話し合い、『できることからやろうぜよ!』と決心したんです。行政にも相談したところ、住民のみなさんが主体となって動き、行政はアドバイスやサポートに徹するというかたちであれば支援を頂けることになりました。集落再生に向けた未来への挑戦のスタートでした。
平成9~11年にかけてまず取り組んだのは、集落全体を包んでいた鬱蒼とした支障林の伐採です。集落を明るくし、外から人が入ってきてくれるような場所にしよう!ということで、すべて集落の人の手作業で、所有者との交渉から伐採までを行いました。そのファーストステップが、集落の人たちに『自分たちでできる!』という自信を芽生えさせたのです。行政も住民の動きに応えてくれ、町の中心部と床鍋地区をつなぐトンネル開通計画も動き始めることになりました」

住民と行政、二人三脚で形にした「森の巣箱」

大﨑さん

「平成12~13年にかけて、より具体的な取り組みがスタートします。床鍋とことん会というのを発足し、ワークショップ等をして住民みんなで“とことん”意見を出し合い、集落再生に向けた基本計画の策定に着手しました。行政側でも『市町村活性化総合事業』を導入し、拠点施設の整備に向けて、より住民と連携した動きが始まったのです。ソフトからハードへ、集落のための新しい場作り。そこで、真っ先に意見が一致したのが、旧床鍋小学校の廃校舎の活用でした。この廃校舎を活用して集落のためにどんな場にできるだろう、住民にとって必要なものはなんだろう、とみんなで考えました。そうして、いくつかの案がかたまったのです」

集落コンビニ(集落生協)

床鍋には食料品や日用品を購入できる店がなくて不便 → お店がほしい!集落住民のためのコンビニを作って、いつも気軽に買い物ができるようにしよう!

宅配サービス

店があっても重い物などは高齢者が運べない → 施設から家庭まで宅配するサービスをしよう!

居酒屋

住民や外から来た人たち、みんなで一緒に食べたり飲んだりできる場所がほしいな → みんなで交流できる居酒屋を作ろう!

宿泊施設

帰省した人たちが泊まれる場所があったらいいな → 廃校舎の空き教室を宿泊所にしよう!(当初は外部の人が来るとは想定していなかった)

「自らの暮らしに直結する住民たちのリアルなニーズや意見を取り入れ、住民と行政が二人三脚で廃校舎を活用した新しい集落再生拠点の構想を立てていったのです。大変ありがたいことに、行政からは廃校舎の改築にかかる費用約9,000万円が高知県市町村活性化補助金から出ることになり、住民の想いを形にする施設実現に向けて、地域一丸で取り組みを加速させていくことになります」

森の巣箱

森の巣箱

そして迎えた平成15年4月20日、ついに農村交流施設「森の巣箱」がオープンを迎えました。名前には、かつて生徒たちが羽ばたいていった校舎が生まれ変わり、住民が再び帰ってきて、また大きく羽ばたいていけるような温もりのある巣箱に、そんな願いが込められたといいます。

オープン時の地元新聞記事。旧床鍋小学校の卒業生らも集って“入学式”を行い、開校を祝福。過疎化の激しい集落の活性化を願った。

オープン時の地元新聞記事。旧床鍋小学校の卒業生らも集って“入学式”を行い、開校を祝福。過疎化の激しい集落の活性化を願った。

自立した運営、集落に活気がよみがえる

オープンから13年を迎えた森の巣箱。この施設が集落活性化のモデル事例として全国から注目を集める理由に、住民たちによる自立した運営体制があります。オープン時の廃校舎の改築には補助金が充てられましたが、オープン後の運営はすべて集落住民によって組織された「森の巣箱運営委員会」が担い、補助金なしで集落内および外から訪れる人たちからの収益で自走しているのです。

住民の生活に必要な商品をそろえる集落コンビニ「森のおみせ」

住民の生活に必要な商品をそろえる集落コンビニ「森のおみせ」。オープン時の当初の運転資金には、集落全世帯から1世帯10万円を募り、400万円を元手に営業を始めました。つまり、集落のみんなが出資者であり、オーナーなのです。その後は集落の各戸と毎月の購買協定を結び、安定した売上を確保すると同時に、意見交換をしながら必要な商品を仕入れて販売し、住民の生活を支えています。

オープンとともに、県内外から大勢のお客さんが訪れるようになりました。自然体験、川遊び、研修など、目的は様々

オープンとともに、県内外から大勢のお客さんが訪れるようになりました。自然体験、川遊び、研修など、目的は様々。外からこれほどのお客さんが訪れることを予想していなかった施設側は、完全に想定外で大慌て。嬉しい悲鳴だったといいます。

森の巣箱には毎夜、集落住民をはじめ近隣から人びとが集い、宴会が開かれています。

天気の良い日には野外テラス席で「森のビアガーデン」も開催

森の巣箱には毎夜、集落住民をはじめ近隣から人びとが集い、宴会が開かれています。独り暮らしの住民にとって、この場は何よりも楽しい時間。若い宿泊客との交流も大いに盛り上がります。天気の良い日には野外テラス席で「森のビアガーデン」も開催。調理スタッフは集落の女性たちが中心になって、ローテーション制で地元の手料理をふるまっています。もちろん大好評!

取材時の夕食。新鮮な鰹のタタキはもちろん、地元の豆腐や獲れたてのイノシシ肉など豪勢なメニュー。地域の人たちとの会話で、調理の仕方やおすすめの食べ方も教えてもらえる。

取材時の夕食。新鮮な鰹のタタキはもちろん、地元の豆腐や獲れたてのイノシシ肉など豪勢なメニュー。地域の人たちとの会話で、調理の仕方やおすすめの食べ方も教えてもらえる。

取材時の夕食。新鮮な鰹のタタキはもちろん、地元の豆腐や獲れたてのイノシシ肉など豪勢なメニュー。地域の人たちとの会話で、調理の仕方やおすすめの食べ方も教えてもらえる。

取材時の夕食。新鮮な鰹のタタキはもちろん、地元の豆腐や獲れたてのイノシシ肉など豪勢なメニュー。地域の人たちとの会話で、調理の仕方やおすすめの食べ方も教えてもらえる。

「なんもないとこやき、お客さんには楽しんでもらわないかん!」と満面の笑みで大﨑さん。

突如始まるコスプレショーも最大限のおもてなし?!

「なんもないとこやき、お客さんには楽しんでもらわないかん!」と満面の笑みで大﨑さん。突如始まるコスプレショーも最大限のおもてなし?!もちろん空気は読むそうですよ(笑)

森の巣箱から広がる交流の輪

集落コンビニ、宅配サービス、居酒屋、宿泊施設という当初の構想をすべて実現してきた森の巣箱。いまではさらに交流の輪が広がっています。

オープン2年目から毎年6月初旬に開催している「ホタル祭り」

オープン2年目から毎年6月初旬に開催している「ホタル祭り」には、県内外から1,000人を超えるお客さんが訪れるといいます。企画から当日の運営まですべてスタッフが行う手作りの祭りで、野外ライブやホタル見学ツアーなどを行い、老若男女誰もが楽しんでもらえるように工夫しています。

カップルの希望にあわせてすべて手作りで演出する森のウェディング

カップルの希望にあわせてすべて手作りで演出する森のウェディング

森の巣箱から、これまでに5組のカップルが羽ばたいていきました。お客さんで初めて来て、この場所で結婚式を挙げに戻ってきた例もあります。カップルの希望にあわせてすべて手作りで演出する森のウェディング。時には他のお客さんもパーティーに飛び入り参加して盛り上がることも。この場所だからこそできる、一生に一度の体験なのです。

集落福祉、希望のマスタープラン

集落再生、地域活性化をめざして取り組みを進めてきた森の巣箱。「いまは第二章に向けて動き始めている」、そう大﨑さんは話します。

大﨑さん

「みんな歳をとってきた。そうして、あらためて考えることがあります。どれだけ自分たち住民がこの集落でしあわせに暮らしていけるか、ということです。外から徐々に人が来てくれるようになりました。でも、最終的にめざすのは、集落の住民がどれだけ安心して楽しく暮らせる地域にできるかということだと思っています。森の巣箱を中心とした地域づくりの第二章は『集落福祉』なのです」

2013年から開始したという「集落福祉」の取り組み。県の職員や民生委員と協力し、まずは集落の全世帯36戸を一軒一軒回り、悩みごとや不安などの聞き取り調査を実施しました。そうすることで浮き彫りになってきた、独り暮らしに対する「不安」と、それでも「自立」した暮らしを送りたいという希望。そうした課題をもとに住民や行政のメンバーが集まって協議し、地域福祉活動計画となる「床鍋アクションプラン」を策定し、歩み始めたといいます。

集落福祉についての話し合いの様子 集落福祉についての話し合いの様子

まず実践に移したのは「お守りカード」と「自主避難訓練」でした。
「お守りカード」とは、床鍋集落の全戸に配布され、各家庭の状況を把握する情報や災害時の避難場所、連絡先等を共有する、集落内の相互助け合いカードです。これによって、いざという時に住民同士がお互いを見守り、助け合うことができるのです。

お守りカードのイメージ お守りカードのイメージ

あわせて、災害時の避難場所を決め、集落全体で自主避難訓練と消火訓練を行っています。こうした活動を通して、それまでは小さな集落の中でも互いに顔を合わさず交流のなかった住民同士にもつながりが生まれているのです。

住民が参加する自主避難&消火訓練 住民が参加する自主避難&消火訓練

もうひとつ、大切にしていることが、「高齢者の生きがいづくり」です。
聞き取り調査の中でわかった、住民たちの想い。「人に頼るより、頼られていたい」「仕事がしたい」「ずっと人の役に立っていたい」。彼らの想いを尊重することこそが、明るく元気な集落の実現につながります。森の巣箱では地域のJAと相談し、高齢者がいつまでも働き続けられる場づくりとして、「床鍋式デイサービス」の取り組みを始めています。まずは集会所をシシトウの選果場として活用し、希望する住民のみなさんに働いてもらっているそうです。高齢者の方々に豊富な経験や技術・知恵を活かしてもらうことで、サービスを受ける側でなく、いつまでも人の役に立つ存在として働いてもらう、そうした環境や仕組み作りをこれからも模索していきます。

元気に働く集落の方々 元気に働く集落の方々

地域で増えている空き家を活用し、住み慣れたこの場所でみんなが集える場を設け、将来的には介護・福祉サービス機能を備えた場の創設も考えている、と大﨑さん。集落の未来を見据えた希望のマスタープランが頭に浮かんでいるようです。

日本一しあわせな集落の夢を見る

日本一しあわせな集落の夢を見る

自立した運営を続け、外との交流を育み、集落の未来を担う森の巣箱の取り組みは、高知県が各所で進めている「集落活動センター」のモデルになっているといいます。森の巣箱では各地からの視察を受け入れると同時に、大﨑さんは同様の課題を抱える全国各地の自治体で講演も行っています。

大﨑さん

「かつて子どもたちが巣立った学校が、いま再び活気を生み出し、集落の未来を担っている。みんなで力を合わせて楽しく運営できている。ほんとうに嬉しいことです。ただ、自分もいま65歳。正直いつまで元気に続けられるのかはわかりません。母親が90歳を迎えてそれを感じています。それでも、地域全体が見守り合い、助け合って、みんなで元気に暮らしていけたら、しあわせなことじゃないでしょうか。移住移住ってよく言われているけど、移住者を積極的に呼び込むことをするつもりはありません。それよりも、この場所を訪れてくれて滞在し、ここでの暮らしに共感してくれる人に来てほしい。そんな人の中から、もしかしたら活動を継承していってくれる人が出てくるかもしれないから」

「森の巣箱ができて、町の中心部からトンネルまで開通して、外から人が来てくれるようになって、集落に活気が戻ってきた。それまで夢のまた夢だと思っていたことが実現してきたんです。だからこれからも“日本一しあわせな集落”の夢を見ながら頑張っていきますよ」