JAPAN FEATURE 高知県・奥四万十
奥にある暮らし ~発見・継承 2016奥四万十博~ 高知県・奥四万十

奥にある暮らし ~発見・継承 2016奥四万十博~ 高知県・奥四万十

「奥四万十」という地域をご存知ですか?

じつはこの名称、正式な行政区分としては存在しません。2016年4月~12月の期間中に開催されている「2016 奥四万十博」で初めて使用されるようになりました。

奥四万十地域とは高知県の中西部、高幡広域5市町(須崎市、中土佐町、四万十町、梼原町、津野町)のことを指します。北部には雄大な四国カルスト、そして南部はカツオ漁で知られる土佐の大海原。日本最後の清流と呼ばれる四万十川や、日本かわうその生息が最後に確認された新荘川は、四国カルストの山麓に源を発し、流域に暮らす人びとの暮らしに寄り添いながらゆったりと流れ、やがて太平洋に注いで豊饒の海を育んでいます。そんな山川海に囲まれた日本の暮らしの原風景が残る奥四万十地域。

「2016 奥四万十博」は、これら奥四万十地域の5市町が連携した旅の誘客キャンペーンです。滞在型・体験型の観光をまちづくりの重点に掲げ、国内外にその魅力を発信し全国からの人を迎えるための自治体の枠を超えた広域地域振興なのです。少子高齢化の進展とともに高まる地方創生の気運、様々な地方自治体が域外からの交流人口の拡大や移住促進に注力する中で、「2016 奥四万十博」がめざす姿とはどのようなものでしょう。

たとえば、旅をしていると、メインストリートから一歩「奥」に入ったところで出逢うお店や、その土地で受け継がれてきた昔ながらの暮らしの風景に心躍ることはないでしょうか。私たちがほんとうに出逢いたいのは、表層的で均質化された都市や文化の姿ではなく、その先にある本質的な魅力や価値です。そしていま、「2016 奥四万十博」が発信するのは、その「奥」にある暮らしの姿なのです。

今回のEdeaでは、土地によって多彩な魅力を有する奥四万十地域5市町の中から、「体験型観光」「伝統文化の継承」「集落の未来」というテーマで4か所をめぐり、地元の方への取材を通して地域の魅力と課題に迫ります。都市部からのアクセスも悪く、歯止めのきかない人口減少と高齢化が進むこの地域は、まさに今後の地方都市が迎える危機にいち早く直面しています。しかし、ここには一般的な観光ツアーでは決して出逢うことのできない、豊かな大自然と受け継がれてきた伝統文化、「奥にある暮らし」の風景があります。一過性の観光振興ではなく、それらの魅力や価値、そして課題までもをしっかりと外に向けて発信し、地域資源や地元の人と外の人との出逢いを創出、その先に見据えるほんとうの交流のかたちから、これからの地方のまちづくりのあり方を見つめました。

取材:2016年6月
協力:
2016奥四万十博推進協議会四万十源流センター せいらんの里、高知県立梼原高等学校、梼原町津野山神楽保存会、
農村交流施設 森の巣箱、コミュニティーセンター 凪の里

space

space

space

【体験型観光】四万十源流センター せいらんの里

暮らしの源流に出逢う旅

四万十源流センター せいらんの里

日本最後の清流といわれる四万十川。全長196kmに及ぶ河川の源流が、津野町船戸の山深い場所にあります。その四万十川源流点から最も近い、緑あふれる山中に佇む観光・宿泊施設が「四万十源流センター せいらんの里」です。

昭和48年に建てられたこの建物は、もともとは県の林業訓練研修施設だったそうです。その後、各地に点在していた研修所の集約化が進み、宿泊所として運営されていた時期もありましたが、継続した運営が困難となり入札に出されることが決定しました。その時に立ち上がったのが、地域住民の方々だったといいます。せっかくの施設を外部の人に渡してしまうのではなく、自分たちでこの地を訪れてくれる人を迎える施設にできないか、ひとつの挑戦でした。

平成17年、この地域で暮らす住民が運営する観光・宿泊施設として歩み出した「せいらんの里」。現在までの10年と、これからについて、責任者である谷脇良枝さんにお話を伺いました。

笑顔で迎えてくれる谷脇さん 笑顔で迎えてくれる谷脇さん

現在、せいらんの里の主な事業は、宿泊施設の運営と「船戸おかあちゃんのランチビュッフェ」の提供です。従業員として日々活動しているのは、リーダーの谷脇さんを含めたった5人。せいらんの里誕生から現在に至るまでには大変な紆余曲折があったといいます。

何にもないところから、地域のおかあちゃんたちとスタート

谷脇さん

「私はもともと宮崎出身なんです。この地域で建設業を営む夫のもとに嫁いできて、せいらんの里の運営に携わることになりました。この施設が入札に出された際に、手を上げたのが地区長を務める私の夫だったのです。ほんとうに何もないところからのスタートでした。私はまず宿泊施設運営のための免許を取得するところから始めましたね」

「まず、せっかく泊まりたいと言ってくれる人がいても、受け入れ体制を整備しなくてはできません。お恥ずかしいことですが、最初はお金もなかったので、地域の商店に協力してもらって布団を譲ってもらったんです(笑)そして、なんといっても働いてくれる従業員が必要です。幸いにも地域のおかあちゃんたちが『協力する!』って言ってくださいました。正直すべてが手探りで、いつまで続くのかもわからない状態でしたから、お給料はその日に現金払いでお支払いしていましたね。それでも、時々来てくださるお客さんと、働いてくれる地域のおかあちゃんたちのおかげで、なんとか独立して運営できるようになったんです」

四万十源流センター せいらんの里

四万十源流センター せいらんの里

豊かな緑に包まれた立地、きれいに整えられた館内

自分たちのため、地域のために、できることをやろう

谷脇さん

「そうして、来てくださるお客さんへの宿泊施設運営は地域のおかあちゃんたちの協力を得て回るようになったのですが、やっぱりアクセスも良くないですし、継続してお客さんが来てくれるわけではありません。そうなると、せっかく働いてくれるおかあちゃんたちに給料も払えない。毎月の電気代の数万円でさえも厳しい状況の時もありました。『これじゃいかん』と。 ​お客さんを待っているだけでなく、私たちでできることをやっていこう、そう決めました」

宅配サービスで顔の見えるご近所付き合いを

「この地域もご多分にもれず、高齢化・過疎化が進行しています。せいらんの里は山の上にありますが、少し下りていったところには集落もいくつかあります。独り暮らしの老人も多いです。地域のおかあちゃんたちは食事を作るのが大好きですし、料理の腕も上手。まずは試しにちらし寿司を作ってそうした地区に売りにいったら、とても喜んでくださる方がいたんですね。それから、みんなで協力して宅配サービスを始めることにしました。待っているのではなく、お料理を作って自分たちで販売しに行く。そのついでに、お独りで買い物にも出られない方に欲しいものを聞いて、届けるようになったり。『今度は○○が食べたいなぁ』という希望があれば、次回に持って行く。『おばあちゃん、○○作ってきたよ~』って伺うと、ほんとうに喜んでくれるんです。私たちの喜びにもなりました。農家をされている家庭に届ける際に、逆に野菜を頂いたりして、次に届ける際にはその野菜を使ったメニューを持って行く。昔ながらの物々交換みたいですよね。お金のことだけでなく、宅配サービスをすることによって、自然とこの地区内で顔の見えるご近所付き合いが生まれるようになりました。このせいらんの里のキッチンで作って、みんなで持って行く。みんなでやりくりして楽しく。いまでは20軒ほどの家に配っています。私たちの活動を応援してくださる人も増えました。幸せなことです。それと、宮崎から来た外の人間である私は、これまで地域の方々にほんとうにいろいろと助けていただきました。みんな人生の先輩でした。だから、この宅配は感謝の気持ち、少しでもお返しできればという想いもあるんです」

四万十源流センター せいらんの里

いつも明るく楽しい雰囲気のキッチン

すべて手作りのおもてなし「船戸おかあちゃんのランチビュッフェ」

「もうひとつ、2014年4月からスタートしたのが『船戸おかあちゃんのランチビュッフェ』です。すべて地元で採れた食材で、地域のおかあちゃんがこだわりのメニュー20品を作ってお迎えしています。四万十川源流点に観光で訪れる方々に、宿泊しなくても気軽に寄っていただき、地元の食材で作った手料理を食べていただきたい、という思いから始めました。清流をのぞむベランダで食べていただくランチは格別ですよ」

地元で採れた旬の食材で作った色とりどりのメニューがずらりと並ぶ

地元で採れた旬の食材で作った色とりどりのメニューがずらりと並ぶ

船戸おかあちゃんのランチビュッフェ

地元で採れた旬の食材で作った色とりどりのメニューがずらりと並ぶ

地元で採れた旬の食材で作った色とりどりのメニューがずらりと並ぶ

地元で採れた旬の食材で作った色とりどりのメニューがずらりと並ぶ

羽釜で炊いてくれるごはんの味も格別

羽釜で炊いてくれるごはんの味も格別

開放的で気持ちのよい宴会場、清流をのぞむベランダで食べるのも特別な体験だ

開放的で気持ちのよい宴会場、清流をのぞむベランダで食べるのも特別な体験だ

船戸おかあちゃんのランチビュッフェ

料金:1名1,000円 / 営業時間:11:30~14:00 ※要予約 / TEL:0889-62-3623

人が本能的にほしいものがここにはあります

谷脇さん

「おかげさまでいまは4月~12月で約700人ほどの宿泊客を迎えています。リピーターの方が『また来たよ!』って来てくれるのが、どんなに嬉しいか。いま流行りのオシャレな宿でもないし、ホテルのようにきめ細かな接客はできないけれど、この場所には人が本能的にほしいものがあると思っています。美しい清流、自然、食事、夜は満天の星空!
地域のおかあちゃんたちに協力いただいて、地元料理の体験講座などもやっています。ご家族で来ていただき、お子さんに食べることの大切さや自然の恵みを感じてもらうのも価値ある体験になるのではないでしょうか。エビフライもハンバーグもプリンもここにはありません。でも、火おこしからごはんを釜で炊くこと、植物のこと、星のこと、私たちは全力でひっついて教えます。おじいちゃん、おばあちゃんが予約して、赤ちゃんのいるお嫁さんを連れてきてテーブルを囲んだ時がありました。離乳食をここで初めて食べたんです!そうした記憶や体験が、またお嫁さんからお子さんに受け継がれていく。お金をかけた贅沢ではなく、五感で味わう体験をしていただきたいと思っています。私たちには経営も宣伝のノウハウもありません。これからもみんなで手作りで魅力を伝えていきたい。だから、ひとりでも多くの方にこの場所のことを知ってもらえると嬉しいですね」

一生現役でいられる場所

谷脇さん

「いま運営に関わってくれているのは、主力である初期メンバーの70~80代の地元のおかあちゃん3名と、28歳の新戦力の千夏ちゃん、そして私のたった5人です。私が経営や事務を主に担当し、おかあちゃんたちは料理、若い千夏ちゃんには料理のサポートと力仕事全般をお願いしています。千夏ちゃんは元自衛隊出身なのですが、ここの力仕事は自衛隊よりキツイって(笑)運営については、みんなでごはんを食べながら、『今度こんなことやろうか?』ってワイワイ楽しく話しています。最高のチームワークですね。おかあちゃんたちが休む時は、病院に薬や湿布を取りに行ったり、血圧の検査の時とか(笑)その時にはヘルプで入ってくれる地域の方もいます。
​みんな『命ある限りやっていこうね~』『逝くときはポックリ逝こうね~』って笑いながら話してますよ。この地域は日本の少子高齢化のモデルのような場所です。でも、私たちにとっては、一生現役でいられる場所。生き生きと楽しく暮らしていける場所なんです」

Teamせいらんの里!(左から)谷脇良枝さん、菅原栄子さん、中山恵津子さん、上岡千夏さん

Teamせいらんの里!(左から)谷脇良枝さん、菅原栄子さん、中山恵津子さん、上岡千夏さん

清流・四万十川の源流地域で出逢ったのは、私たちが都市生活の中で縁遠くなっていた自然とのつながり、そして人と人のつながりが育む“暮らしの源流”でした。体験型観光とは、なにも観光地をめぐったり、体験ツアーに参加することではありません。本質的には、その地に滞在し、そこにある暮らしの姿に触れること、それらに敬意をもって接することではないでしょうか。奥四万十には、それらを体験できる場があり、迎えてくれる人たちがいます。さあ、奥にある暮らしに出逢う旅へ。

四万十源流センター せいらんの里