母から娘へ、三世代海女

母から娘へ、三世代海女

鳥羽市相差町にある民宿「なか川」。この宿を経営する中川さん親子は、祖母・寿美子さん、母・早苗さん、娘・静香さんの3人共にいまも漁を続ける、全国的にも珍しい三世代海女です。代々受け継がれる海女文化のアイコン的存在として、鳥羽市観光キャンペーンガールにも任命され、海女の魅力を全国に発信しています。

鳥羽市の観光ポスターになった中川さん母娘 鳥羽市の観光ポスターになった中川さん母娘

娘の静香さんは24歳、海女歴はもう5年以上になります。後継者が減り続ける海女の道をめざしたきっかけや現在の活動内容について。また、海女として一緒に歩んでいくことを認めた母・早苗さんの想いなど、中川さん母娘にお話を伺いました。

海女になったきっかけ

静香さん

「幼い頃から海が大好きでしたし、おばあちゃんやお母さんが海女をしているのをいつも見ていて、かっこいいなって思っていましたね。獲れたての新鮮なアワビは宿のお客さんも大喜び。民宿を手伝いながら、『私も海女になってみたい』って思い、高校3年生の時に海女デビューしたんです。それから卒業して大学に進学しましたが、午前中海に潜ってから大学へ通うスタイルで海女を続けていました。相差で育ったので、やっぱり地元が好きで、海女という文化に自分も関わっていきたい気持ちがありましたね。でも、じつは最初はお母さんに反対されたんですよ(笑)」

早苗さん

「海女という仕事は、かんたんなものじゃないですから。決して、強制してやらせるものじゃないんです。まず、ほんとうに海が好きかどうか、潜りたいのか。その強い気持ちがないとできません。生業として続けていこうと思うと、技術はもちろんのこと、限られた漁の期間で気候や海の環境によっても左右され、生活は安定しません。親として、娘には正直なところ海女になってほしくないという想いもあったんです。安定した企業に就職してほしかったですね(笑)後継者も大事だけど、やっぱり娘の人生がいちばん大事ですから」

早苗さん・静香さん

静香さん

「だから、じつはいまは、大阪の企業にお世話になりながら海女を続けています。大学を卒業して、海女をしながら働かせてもらえる会社を探していた時に、縁あって、飲食店経営を行う株式会社フーズクリエーションさんに採用いただきました。週一回本社に出社し、それ以外は働く場所はどこでもOK。いまは飲食店向けに、鳥羽の食材を使ったメニュー開発を担当していて、仕事はほんとに楽しいです!ここでも地元の魅力を発信できるのがうれしいですね」

鳥羽市観光キャンペーンガールの活動について

早苗さん

「もとは鳥羽市の方から私たちの観光キャンペーンガールのお話をいただきました。やはり三世代で現役の海女というのは珍しいですし、海女文化を紹介していくのに適任だと思っていただけたようでうれしかったですね」

静香さん

「運やタイミングもよかったんです!観光キャンペーンガールのお話がきた後、大学3年生の時に『ミス伊勢志摩グランプリ』に選んでいただき、さらにその後に『あまちゃん』が大ヒット!全国のみなさんに海女に興味を持ってもらえたので、観光キャンペーンガールのお仕事でもいろんな経験をさせてもらえました。鳥羽の特産品である真珠と海女をPRするためのポスターで、フェルメールの名作『真珠の耳飾りの少女』にちなんで「真珠の耳飾りの海女」になれたり(笑)県内や全国各地のイベントに参加したり、いろんなメディアにも出演させてもらい、とても貴重な経験をさせてもらっています」

鳥羽市の観光サイト「恋する鳥羽」のオープニングに使われる「真珠の耳飾りの海女」

都内の観光イベントで、志摩市のゆるキャラ「しま子さん」と伊勢志摩をPR

(左)鳥羽市の観光サイト「恋する鳥羽」のオープニングに使われる「真珠の耳飾りの海女」
(右)都内の観光イベントで、志摩市のゆるキャラ「しま子さん」と伊勢志摩をPR

静香さん

「観光だけでなく、海女さん同士の交流もあります。10月には鳥羽で『海女サミット』が開催されました。海女文化の保存と継承をテーマに、日本全国から、そして韓国・済州島の海女さんも集結し、交流を行いました。私も韓国の海女さんとの交流イベントで済州島を訪れたことがあり、仲良しになれました。彼女たちは『日本製の道具を使ってるよ!日本に来た時に買っていく』って笑ってました。同じ海女同士につながりが生まれること、とっても大切だと思います」

韓国の海女との交流イベント参加で済州島に 韓国の海女との交流イベント参加で済州島に

これからの海女

早苗さん

「ご存知の通り、海女は高齢化や後継者不足、海の資源の減少でとても厳しい状況にあります。しかも、海女は一人前になるには最低10年はかかります。つまり、いまから守り、増やしていかないといけないのです。外から若い人を呼び込んで海女になってもらうというやり方もあるのかもしれませんが、それが正しいとは思えません。最近は結婚して鳥羽に来て、それから海女を始める女性もいらっしゃいます。もちろん旦那さんのお仕事があり、少しの資金で海女を始めることはできますが、基本的に何から何まで自分で学んでいく必要があります。そうした方々を含め、地元で海女を生業として続けていく人たちへの何かしらの保障やサポートが、地域にとって必要なのではないかと思います。それは子どもの教育にも関わるかもしれません。私も正しい答えはわかりませんが、海女漁に関わる人たちや地域が一体となって取り組んでいきたいですね」

静香さん

「私は、これからも仕事を続けながら地域の魅力を発信し、そして、ひとりの海女として、できるところまで続けていきたいと考えています。ぜひ、多くの人に鳥羽に来ていただき、海女文化に触れて美味しい海の幸を満喫していってほしいです!お待ちしています」

民宿 なか川

海女文化と鳥羽の魅力を世界へ、次の世代へ

伊勢志摩サミットの開催を機に世界の注目が集まるいま、三重県をはじめ海女漁が残る各地が連携し、海女文化のユネスコ無形文化遺産登録をめざす取り組みが進んでいます。全国一の海女数を誇る鳥羽では、世界に向けて海女文化と鳥羽の魅力を発信していきます。同時に、海女漁の期間やルールを整備し、海女漁に必要な資源を守り受け継ぐために、海藻を植えたり稚貝の放流、藻場を増やすなど、海の環境改善策も進行中です。

鳥羽では、地域が誇る海の幸であり、古来から伊勢神宮の神饌として捧げられてきた伊勢エビ、アワビ、鯛の3種を、祝い事に欠かせない「日本の祝い魚」と名付けPRしています。「人生の節目に鳥羽を訪れてくれますように」、そんな想いが込められました。

鳥羽市観光課の奥田珠美さんは、こう話します。
「鳥羽は豊かな自然環境や様々な観光資源にも恵まれた地域です。ただ、何でもある、とアピールするのではなく、何かに絞って深く伝統や価値を伝えていく必要性がある中で、やはり柱となるのは海女文化なのです。鳥羽市だけでなく、伊勢志摩エリアが一体となって、新しいかたちで海女文化を全国に、そして世界に発信していく必要があると思っています」

鳥羽市観光課の奥田珠美さん 鳥羽市観光課の奥田珠美さん

11月には、鳥羽市の海の博物館などでつくる海女文化国際発信事業実行委員会から、海女文化を紹介するパンフレット「志摩半島の海女」が発行されました。今後は日本語版だけでなく、海外から訪れる観光客向けに、英語・フランス語・韓国語・中国語の4カ国語版の発行が予定されているといいます。
また、現役海女2人によるアイドルユニット「とばぁば」も新たにデビュー!“海を守る現役海女戦士”というユニークな設定には、若い世代をターゲットに“バズる”ことで、これまで海女を知らなかった人たちに知ってもらえればという狙いもあるそうです。12月にはファーストシングル「We are the とばぁば!」が発売予定。

▶ とばぁば公式サイト

これからは自治体発信だけでなく、地元企業や海女のみなさん自身から、伊勢志摩の海女文化が新しいかたちで発信されていくのかもしれません。海外から訪れる多くの観光客も、その発信に大きな役目をはたすことになるはずです。それでも、はるか昔からこの地で守り継がれてきた海女文化の“本質”は決して変わることはないでしょう。

豊饒の海と、海女たちが迎える“もてなしの国”。ぜひこの機会に会いにいってみてください。