JAPAN Feature 石川県・金沢市 KANAZAWA つくるまち、つなぐまち

近江町市場商店街

近江町市場商店街

金沢の台所 おみちょ

「金沢の台所」として知られる近江町市場。金沢港をはじめ近隣の港で獲れる新鮮な海の幸や生鮮食品が集まり、常に賑わいを見せています。誕生から294年もの歴史をもち金沢の食文化を古くから支えてきた市場で、地元では「おみちょ」の愛称で親しまれてきました。金沢を代表する観光スポットとして紹介されることも多く、北陸新幹線の開業にともない、これからますます観光客が増えることが予想されます。
ただ、金沢が大きな変化の時にあって、この市場のめざす姿は “変わらない” ことなのかもしれません。観光地ではなく、市民のための市場であること。その想いを、27年もの間、近江町市場商店街振興組合で勤めてきた小林すみ子さんに伺いました。

27年もの間、近江町市場商店街振興組合で勤めてきた小林すみ子さん

旬の食材、金沢の食文化の本質に触れてください

「近江町市場は観光地ではありません。常にそうあるべきだと思ってきました。なので、観光客の方々に向けた情報発信というのは特にやってないんですよ。昔からの市民の台所として、金沢の四季折々の旬の食材がそろうこの市場には、現在は183もの店舗が軒を連ねています。商売をしているみなさんは昔から変わらずに、地元の人に対しても、観光客に対しても、威勢よく声をかけ、当たり前に商売をしてきました。季節のイベントも以前と変わらず、4月には春祭り、10月には秋祭り、11月にはカニ鍋をふるまって、訪れるみなさんに市場の旬の食材を味わってもらっています。私たちが考える『おもてなし』というのは、新幹線が通ったからとか、観光客が増えるからとか、そういうことではなく、来てくださる方に当たり前に金沢の食を楽しんでもらうことなのです。

たしかに、最近は非常に多くの観光客の方々にお越しいただいています。でも、場内の飲食店さんで食事するだけが目当てで、売られている食材に興味をもたず帰られる方が多いのが現状です。正直なところ、残念ですね。市場は食堂街ではありません。せっかく来てくださるみなさんには、ぜひ、ズラリと並ぶ新鮮な魚を見て、野菜を見てほしいのです。

市場に並ぶ新鮮な鮮魚類

市場に並ぶ新鮮な鮮魚類

あらゆる食材には『旬』があります。驚くほど多くの食材が市場に並んでいます。季節ごとに異なる食材たちが市場を彩り、お店のみなさんも自慢げにアピールしてくれるはず。『これはどうやって食べるの?』と会話して、食材を知って、家での料理に使ってみていただきたい。もちろん市場から発送もできます。そうして、この金沢の人びとの生活に受け継がれてきた食文化の本質に触れていただけるとうれしく思います」

ゲリラレストラン ― 食の新しい発信にも挑戦

観光客の誘致ではなく、金沢の食文化の伝達という目的で、2015年3月に近江町市場は新しいユニークな挑戦を行いました。金沢21世紀美術館とのコラボレーションによって近江町市場を舞台に開催されたのは「ゲリラレストラン」と呼ばれるフード×アートイベント。石川県出身でフードクリエイション主宰のアーティスト・諏訪綾子氏が手がける、「あじわい」や「味覚」をテーマにした食の体験プログラムです。市場の一角にレストランが出現し、金沢の食材とアートとの融合によって創られた料理がふるまわれます。ユニークな演出の中で、食べた瞬間の表情、驚き、楽しさなど、全国から抽選で選ばれた60名の参加者に新しい食体験が提供されました。

ゲリラレストランat 近江町市場の様子

ゲリラレストランat 近江町市場の様子

こうした新しく斬新な取り組みにも、市場の組合のみなさんは協力的だったといいます。最初に企画を説明した時に返ってきたのは、「わけわからんけど、おもしろそうだからやってみよう」という返事。「歴史あるこの市場でも、大胆な新しいことに挑戦できる。うれしかった」、そう小林さんは話します。

地元の人たちが帰ってくる市場に

近江町市場がこれからめざす姿。それは、これまで通り変わらずに市民の台所として金沢の食文化を伝え受け継ぐ場所であると同時に、地元の家族や若い人たちに戻ってきてもらえる市場になることだといいます。 近年は郊外型のスーパーやコンビニの増加、核家族の増加や食生活の変化によって、市場を訪れる地元の人は減っています。かつては暮れの買物の場として大いに賑わった市場も、いまでは御節料理を家で作る家庭も少なくなりました。若い親世代にいかに日常的に市場に来てもらえるかが今後の課題です。

「近江町市場のお客さんは地元の年配の方々が多いですが、それがずっと続いている。つまりは、親子代々市場に行く文化が受け継がれてきたということです。変化の時代にありますが、私たちは金沢の食文化を守るためにも、いまの若い親世代の方々にぜひ市場に足を運んでほしいのです。たとえば、毎年夏休みに近江町市場では『ちびっこ美術館』を開催しています。これは、地元の子どもたちに市場にある好きな食べ物を描いてもらう絵画コンクールです。作品は市場で飾られ、親子一緒に見に来ていただき、市場を楽しんでいってほしい、そういう想いで17年も続いています。金沢の食文化を守り、次代に受け継ぎ、地元の人たちが帰ってくる市場になるべく、私たちはこれからも努力していきます」

絵画コンクールで市場内に飾られた子どもたちの作品
絵画コンクールで市場内に飾られた子どもたちの作品

親子で訪れる人も多い季節のカニ鍋イベント
親子で訪れる人も多い季節のカニ鍋イベント